山口地方裁判所 昭和27年(ワ)125号 判決
原告 奥村左亀馬
被告 国
一、主 文
原告の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告の訴訟代理人は被告は原告に対して金十七万二千九百七十二円及び之に対する昭和二十七年五月二十七日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払わなければならない。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十四年七月二十八日永瀬此二に対し金十五万円を利息は年一割、毎月末日支払、弁済期は同年九月末日の特約で貸与し、永瀬此二から右債権の担保として同人所有の下関市大字豊前田町字豊前田町百三十九番地上に在る家屋番号百五十一番の四木造瓦葺二階建店舗兼居宅建坪階下二十二坪五合二階六坪に抵当権の設定を受け同日その旨の登記を了したところ右永瀬此二は昭和二十五年四月二十七日後藤若之助に右家屋を売渡し、同日売買に因る所有権移転登記を了した。ところが下関税務署は右後藤若之助の滞納税金債権の弁済を受けるため同年十月十二日右家屋を差押え翌昭和二十六年四月十一日右家屋を田淵幸枝に公売を決定し同月十二日右家屋について田淵幸枝名義に所有権移転登記を了し公売代金二十余万円は滞納処分費並びに右後藤若之助の滞納税金に充当した然し原告は右後藤若之助に関係のない第三者である右永瀬此二に対する債権の担保として同人から右家屋に抵当権の設定を受けたのであり又右後藤若之助は右永瀬此二から右抵当債権額を控除して、その金額だけ安い価格で右家屋を買受けたものであるから右公売代金は先づ原告の抵当債権額に充つるまで原告に配当すべきものであつて決して右税務署が所得すべき法律上の理由はないのである。従つて右税務署の取得した公売代金中右抵当権の被担保債権額たる元金十五万円及び右金額に対する昭和二十四年十月一日より同二十六年四月十二日に至るまでの年一割の遅延損害金二万二千九百七十二円計十七万二千九百七十二円は前述の理由によつて原告が所得すべきものであるにも拘らず右税務署がこれを原告に配当しないで何等正当の理由なくて取得した利得であるから不当利得である。そこで原告は右の理由に基く不当利得を原因として被告に対して右金額及び之に対する本件訴状が被告に送達せられた日の翌日である昭和二十七年五月二十七日より完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。更に選択的主張として収税官が抵当権の設定ある不動産の差押を為す場合には税金額及び滞納処分費用その他重要なる事項を抵当権者に通知し優先権行使の為に必要なる申出を講ぜしめる機会を与うべきに不拘、下関税務署は抵当権者たる原告には何等の通知をしないで公売手続を完了した。従つて右税務署の右家屋に対して為した差押処分は全部無効であるから被告の取得した公売代金は法律上の原因を欠くから右公売代金中前述の金額は不当利得である。それで原告は右第二の理由に基く不当利得を原因として被告に対して前記主張と同様支払を求めるために本訴に及んだ。と述べた。
被告の指定代表者は主文同旨の判決を求め答弁として、原告の主張事実の中原告がその主張のころ永瀬此二にその主張のように金十五万円を貸付けその担保として同人からその主張のような抵当権の設定を受け、その登記を了したこと、右永瀬此二が原告主張の家屋を後藤若之助に売渡し即日所有権移転登記を了したこと、下関税務署が右後藤若之助に対する税金の滞納処分として原告主張の家屋の差押、公売決定、登記をし、公売代金二十四万円を原告主張の通り処分したことは之を認めるがその余の主張事実は全部否認する。即ち(一)被告は後藤若之助に対し昭和二十四年度所得税第一期分法定納期同年六月三十日税残額金十五万八千六百三十四円、同加算税額金二万七千七百七十円、同第二期分法定納期同年十月三十一日税額金十六万五千三百三十三円、同加算税額金七千四百三十八円、及び同第三期分法定納期昭和二十五年一月三十一日税額金十六万五千三百三十三円、同加算税金三千三百円、同追徴税金四万一千二百五十円、総計金五十六万九千五十八円の租税債権を有するものである(右指定納期は右第一、二期分は昭和二十四年十二月十五日右第三期分は昭和二十五年三月二十二日)が、右家屋に対する原告の抵当権は昭和二十四年七月二十八日設定されたものでありこの設定者が納税義務者であるかどうかは問わないのであるから国税徴収法第三条により被告の有する租税債権は原告の抵当権に優先することは明らかである。従つて公売代金は滞納税額に先づ充当すべきであつて原告に先づ配当すべきではない。(二)被告が抵当権者たる原告に通知をしないで差押処分をしたとの主張事実は否認する。仮りに通知をしなかつたとしても不動産に対する差押処分は国税徴収法第二十三条の三の手続を経れば足るのであつて、抵当権者に対する通知は単に差押の事実を利害関係人たる抵当権者に知らしむる為にするものに過ぎないから右通知の有無は差押処分の効力発生には何等影響がなく単に取消しうべき行政処分に過ぎない。(三)又仮りに原告主張の如く公売処分が無効であるとすれば右公売によつて後藤若之助は右家屋の所有権を喪失せず従つて原告の抵当権も存続するから抵当権が消滅して損害を受けたと主張することはそれ自体失当である。以上の理由によつて原告の本訴請求は失当であるからこれに応ずることはできない。と述べた。
原告の訴訟代理人は被告の答弁に対して右後藤若之助の滞納所得税額を認めるがこれが昭和二十四年度分であることは否認する。その他の答弁事実並びに法律上の見解は否認する。と述べた(証拠省略)。
三、理 由
よつて按ずるに、原告が昭和二十四年七月二十八日永瀬此二に対し金十五万円を利息は年一割毎月末日、弁済期日は同年九月末日の約にて貸与し右永瀬此二は右債権の担保として原告に対して同人所有の下関市大字豊前田町字豊前田町百三十九番地上に在る家屋番号第百五十一番の四、木造瓦葺二階建店舗兼居宅建坪階下二十二坪五合二階六坪につき抵当権を設定し同日その登記をしたこと、更に右永瀬此二が右家屋を後藤若之助に売渡し即日その登記をしたこと、下関税務署が右後藤若之助に対する滞納税金債権の弁済を受ける目的で昭和二十五年十月十二日右家屋を差押え翌二十六年四月十一日右家屋を田淵幸枝に公売決定し、同月十二日右家屋について田淵幸枝名義に登記をし右公売代金二十余万円は下関税務署が右滞納税額に充当したことは当事者間に争がない。成立に争のない乙第一号証の一乃至三、乙第二号証の一乃至三、乙第三号証の一、二の記載によれば右後藤若之助に対する昭和二十四年度所得税額は、第一期分金十六万五千三百三十四円、第二、三期分は各十六万五千三百三十三円であること及び同人の昭和二十五年十月十二日現在における滞納所得税額、加算税額、追徴税額が被告の答弁のように合計金五十六万九千五十八円であることが認められ他に右認定を覆すことができる証拠がない。そして右納期限が第一期分は同年六月三十日、第二期分は同年十月三十日、第三期分は翌年一月三十一日であることは所得税法(昭和二十二年法律第二十七号)第三十条、昭和二十三年の所得税の予定申告書の提出及び納期の特例に関する法律(昭和二十三年法律第十五号)、右法律の一部を改正する法律(昭和二十三年法律第五十号)、昭和二十四年の所得税の四月予定申告書の提出及び第一期の納期の特例に関する法律(昭和二十四年法律第十三号)によつて法定されている。そうすると原告の右家屋の抵当権設定日時は前記の通り昭和二十四年七月二十八日であるから右昭和二十四年度所得税の納期限より一年前でないことは算暦上明かである故国税徴収法第三条によつて原告は右所得税債権に対して優先権を主張してその公売代金を先取することは出来ないといわねばならない。原告は国税徴収法第三条の趣旨は抵当権設定者と納税義務者とが同一人である場合を規定して居るのであつて原告の抵当権の如き納税義務者以外の第三者から設定を受けた場合は同条には包含しないと主張するが思うに国税の徴収は国家財政の必要から確保されねばならぬ最も権力的なものであつて、抵当権の設定が国税納期限一年前でない限り原則に従つて国税が優先するものとし、納税義務者が抵当権設定者であるとあるいは抵当権設定者より承継取得したものであるとによつて別異の解釈を執るべきではない。然らば右家屋の公売代金二十余万円の配当につき右税務署が滞納処分費と右後藤若之助の滞納額金五十六万九千五十八円に充てたことは国税徴収法第三条に則り同法第二十八条第二項所定の手続によつたものであるから正当なる処分といわなければならない。従つて不当利得にはならない。
そこで原告が自己の抵当権の優先を主張しこれを前提として為した第一の請求はこの前提において失当であるから進んでその他の争点の判断を為すまでもなくこれを棄却する。
次に第二の請求につき原告は右下関税務署が右家屋に対して為した差押処分は差押前抵当権者たる原告に対して国税徴収法施行規則第十二条による通知をしなかつたから無効であるから公売代金を滞納税額に充当したことは法律上の原因を欠くものとして右公売代金中抵当債権額並びに遅延損害金の返還請求権があると主張するのでこの点について審究すると被告は右通知をしたと主張するが、この点の立証がないので進んで各通知を欠いた場合の差押処分の効力につき按ずるに、国税徴収法第三十一条の二には国税の賦課徴収に関する処分又は滞納処分に関し異議ある者は所得税法その他別に法律を以て定むるものの外当該処分に係る通知を受けたる日(当該処分に付通知なきときは当該処分のありたることを知りたる日)より一箇月以内に政令の定むる所に依り不服の事由を記載したる書面を以て当該処分を為したる税務署長(当該処分を為したる者が税務署の職員なるときは当該職員の属する税務署の税務署長)に対し再調査の請求を為すことが出来る旨規定せられているから同条の請求が認められ、右処分が取消されたとき始めて無効となるものであつて右処分の手続上の瑕疵が当然無効事由となるものとは解せられない。従つて右差押処分が無効であることを前提とする右第二の請求は之を容れることが出来ない。
そうすると、原告の本訴各請求は何れも理由がないから之を棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 三好昇)